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世界は今、安倍政権に注目している。経済政策「アベノミクス」だけではない。実は、人権分野でも新機軸を打ち出し、国際的に影響を与え始めている。

私が日本代表を務める「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」(本部・米ニューヨーク)は、約90か国で人権状況を監視する国際民間活動団体(NGO)だ。地球規模での人権擁護を目指している。

日本は、国内では民主主義が根づいている。だが、国際舞台での人権問題や民主主義への貢献度は高くない。残念ながら、日本の外交官が人権の議論をするのは、私的な場が多い。人権問題で主導権を握らず、いわゆる「沈黙外交」に見える。外交上の摩擦回避や経済利益優先などの思惑があるのだろう。

ところが、安倍首相は、この伝統的な日本外交に新たな息吹を吹き込もうとしているようだ。

例えば、北朝鮮の人権侵害である。「人道に対する罪」の証拠を収集する国連調査委員会の設立に向け、首相は就任直後、スイスの国連人権理事会で日本が主導的役割を果たすよう外務省に指示した。世界に先駆けた画期的な動きだった。

調査委員会の設立に消極的な国も多かった。財政支出を嫌がる国、効果に疑問を呈す国、核問題への関心が薄れるのを恐れる国など――。だが、日本は米国や韓国などと協力し、こうした懐疑論を乗り越えた。

その結果、国連は今年3月、調査委員会の設立で合意した。歴史的な一歩だ。

世界的な法律家から成る調査委員会は、早ければ今夏にも日本を訪れ、北朝鮮による拉致被害者の家族たちから聞き取り調査を行う予定だ。

政治犯収容所や拉致など、北朝鮮政府の高官らの犯罪行為の証拠を、国連が公式に収集する。「従来の態度を改めなければ、国際法廷で裁かれる危険がある」という警告を発した形だ。

首相の断固たる姿勢は、1月の所信表明演説ですでに表れていた。首相は「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値」を基軸にすえた外交路線を敷く、と宣言した。これほど確固たる方針を示した日本の首相はこれまでいなかった。

ただ、旧態依然の「沈黙外交」を変えるのは、そう簡単ではない。真の努力が必要なのはこれからだ。例えば、スリランカの戦争犯罪をめぐる今年の国連人権決議の際、日本は棄権し、私たちはがっかりした。

今後の最大の課題は中国だろう。人権問題をめぐり、日中両政府は、「人権対話」という官僚による非公開の会議を数年に一度開くだけで、活発な動きはない。日本は、この会議の内容を公開し、中国に人権重視の政策を求める、とはっきり表明するべきである。

日本外交の強みは従来、多額の政府開発援助(ODA)にあった。だが、今や中国がそれを上回る対外援助を行うようになった。

日本の最大の強みは、民主主義の価値を広められることではないか。安倍政権が人権重視外交を一段と力強く推進することを、世界が期待している。

 

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