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ミャンマー タイ国有企業が軍政に資金提供

石油・天然ガス企業PTTは国軍系企業や政商との関係を断つべき

Anti-coup protesters run from teargas deployed by the police during a demonstration in Yangon, Myanmar, March 1, 2021. © 2021 Sipa USA via AP Images

(バンコク)タイ政府が過半数株主であるPTTはミャンマーでの事業を拡大するためミャンマー国軍系の企業と提携している、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。PTTはすでにミャンマーにある天然ガス田の操業を通じて、毎年約5億ドルを軍政が支配する諸企業に支払っている。

PTTは2019年に組んだ提携事業を通じ、農民から接収された土地に燃料ターミナルを建設するための賃料としてミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)に毎年100万米ドル近くを支払っている。米国、英国、欧州連合(EU)、カナダは、MECと同じく国軍系複合企業であるミャンマー・エコノミック・ホールディングス・リミテッド(MEHL)に制裁を科している。両社の莫大な収入が国軍による人権侵害を継続するための資金源となり、国軍の責任逃れを助けていることが制裁の理由となっている。

PTTはミャンマーの国軍系企業との関係を断ち、民主的政府が確立されるまでミャンマーへの新規投資をすべて停止するべきである。外国政府もPTTやその他の企業が運営する石油・天然ガス事業から国家統治評議会(SAC)の政権への直接および間接的な支払いを阻止する措置を取るべきである。

「タイ国有のPTTは、残虐な弾圧を行っているミャンマー国軍と商業関係を拡大しており、ミャンマーの人びとの生命や自由への配慮をほぼ無視していることになる」とアジア局の調査員であるシェイナ・ボーシュナーは述べた。「PTT指導部は国際的な制裁を尊重し、ミャンマー軍政の犯罪に加担するのを避けるために、軍政との関係を断つべきである。」

選挙で正式に選ばれた政府が2021年2月1日のクーデターで倒されて以降、全国の民主化を求める抗議活動への国軍の対応は残虐さが増している。国の治安部隊は820人以上を殺害し、推定で4,300人の活動家、ジャーナリスト、公務員、政治家を逮捕した。

PTTは1989年以来ミャンマーで石油・天然ガスの探査と生産を行っており、ミャンマーの国営企業に数十億ドルに上る手数料、税金、使用料、収益などを支払ってきた。しかし近年は生産量が減少してきたため、PTTは石油製品について「ミャンマーのトップ供給者」を目指すと表明し、中流部門や上流部門への投資を増やしている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは5月11日にPTTに書簡を出し、ミャンマーでの営業について尋ねたが、返事は受け取っていない。

PTT links with crony company KBZ and the Myanmar military.

<PTTの政商企業KBZとミャンマー国軍との関係>

インドのアダニ・ポート・アンド・スペシャル・エコノミック・ゾーン社は最近「ミャンマー国軍との商業関係に関してリスクが高まっている」ことを理由にダウ・ジョーンズの持続可能性指数から除外された。PTT同様、アダニ社もMECから土地を入手していた。PTTも4つの子会社と共に同じ持続可能性指数に掲載されている。ヒューマン・ライツ・ウォッチはS&Pダウ・ジョーンズ・インデックスに連絡し、アダニ社と同じ基準に照らしてPTTを審査するよう求めた。

PTTの事業拡大計画は、政府や企業の機密情報を公開している非政府組織DDoSecrets によって最近リークされた2017年3月付の国軍系のカンボーザ・グループ(KBZ)との了解覚書に記されている。後にPTTはKBZとの事業提携に2億ドル以上を投資する計画を発表した。

2019年にPTTオイル&リテール(PTTOR: PTTの子会社)とKBZはヤンゴン管区域チャウタン郡のティラワ地区に桟橋、燃料油貯蔵ターミナル、液化石油ガス(LPG)充填プラントを建設するために投資額1億5,000万ドルのジョイントベンチャーを始めた。PTTによれば、このターミナルはミャンマー最大となる予定で、100万バレルの石油と4,500トンのLPGを貯蔵することができる。当初は2021年に完成予定だった。

ミャンマーの主要複合企業の一つであるKBZは、長年国軍と親しい関係にあるアウン・コー・ウィンが所有し、ミャンマー最大の銀行のほか、採掘、製造、テクノロジー、貿易その他の分野にまたがる数十の企業を経営している。KBZは国軍と密接な個人的、財政的、商業的関係を維持しており、それが国軍の利益や便宜となっている。国連のミャンマーに関する国際独立事実調査団は2019年、2017年にラカイン州のロヒンギャ民族に対して行われた治安部隊による作戦にKBZが470万ドルを寄付したことを明らかにし、「人道に対する罪である迫害、その他の非人道的行為を援助、幇助、あるいは他の形で支援した」KBZの取締役たちは捜査、訴追されるべきだとの結論を出した。

KBZは20年以上前からヒスイや宝石の採掘事業で国軍系複合企業であるMEHLとも提携してきた。EUは2012年まで、以前の軍事政権との関わりを理由にカンボーザ銀行とアウンコーウィンおよびその家族に制裁を科していた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは5月11日にKBZに書簡を出したが、返事はない。

 

<プロジェクト関連文書>

 

リークされたミャンマー投資委員会の資料によれば、PTTORとKBZのジョイントベンチャーであるブライター・エナジーは燃料ターミナル建設のためにMECと防衛省からBOT契約に基づいて土地を賃借している。PTTは2019年にブライターエナジーの株35パーセント分をKBZから購入した。
 

Map of fuel terminal location. Source: Brighter Energy documents
Brighter Energy terminal construction as of May 2021. Image courtesy of Planet Labs, Inc.

<ターミナルの位置を示す地図> 

<2021年5月現在のブライター・エナジーのターミナル建設状況>

BOT契約が適用されるのはティラワにあるMECの船舶解体工場の近くにMECが所有する168.5エーカー(約70ヘクタール)の土地である。契約は2年間の建設期間の後50年間有効で、その後10年間の延長を2度行うことができる。MECへの賃料の支払いには168万5,000ドルの特別土地使用料と年間80万8,800ドルの賃料が含まれ、契約期間を通して合計4,200万ドル支払うことになる。燃料ターミナルの建造物と設備はすべて契約終了時にMECに無料で譲渡される。この契約に署名したのは最近英国に制裁を科されたMEC代表取締役のタンスエと、ブライター・エナジーの取締役らである。

非政府組織のアースライツ・インターナショナルナマティの報告によれば、当局はチャウタン郡のティダミャイン地区にある土地を、数十年間そこで働いていた農民から奪って手に入れた。MECは2014年に、軍政関係者が1996年にその土地を不法に接収しようとしたことに基づいて農民33人を不法侵入罪で訴えた。農民たちは2018年に有罪判決を言い渡された。同年、MECは168.5エーカーを「建物と貯蔵タンク」のために使用する申請の一環で付近の土地を登記した

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February 2017: © 2021 Maxar Technologies; Source: Google Earth May 2020: © 2021 Maxar Technologies; Source: Google Earth

PTTとKBZは軍政が支配する内国歳入局に相当な額の税金を納めることにもなる。契約の付録では、最初の20年間の商業税と所得税は合わせて13億6,000万ドルと推算されている。ブライター・エナジーによれば、燃料ターミナルの純利益は操業開始1年目で6,570万ドル、10年後からは毎年1億400万ドルと推算され、これに加えて石油と天然ガスの販売から6,300万ドルの収入が見込まれる。

この燃料ターミナル事業はPTTによるミャンマーでの事業拡大の一例にすぎない。PTTは2020年12月、国内向けの一体型ガス火力発電事業に20億ドルを投資する契約をミャンマーの電力エネルギー省と結んだ。現在同省を率いるSACの閣僚のアウンタンウーは、以前の軍事政権での役割を理由にEUから制裁を科されていた。PTTの取締役であるポンサトーンタウィシンは3月に記者らに対し、この事業はクーデターの影響を受けておらず予定通り進むことになっており、またPTTは政治的に中立であると述べた。PTTは5月に建設予定地の掘削装置の入札を募った

PTTはミャンマーの主要な4つの天然ガス田のうち3つでミャンマー石油ガス公社(MOGE)との事業を行っており、それらを通じてすでにミャンマー政府に毎年5億ドル以上を支払っている。PTTは2019年に計画・財務・工業省に1億2500万ドルの税金を納めたと報告した。現在同省を率いるSACの閣僚のウィンシェインは、軍政で以前副大臣だったことを理由にEUから制裁を科されていた。

PTTの人権基準には、PTTは国際人権条約のほか、国連ビジネスと人権に関する指導原則など一般企業に適用される国際人権基準に従うと書かれている。

クーデター以降、国家統治評議会(SAC)はPTTの事業に関与している機関も含め、すべての政府省庁と国有企業の活動と銀行口座の支配権を握った。SACは外国からの投資を推進するミャンマー投資委員会も一新し、SACのメンバーでもあるモーミントゥン中将を委員長に任命した。米国、英国、EU、カナダは、SACの構成員であることに加え、2017年のロヒンギャに対する作戦を監督する陸軍参謀長として、重大な人権侵害をしたことを理由にモーミントゥンに制裁を科している。他の国軍幹部と同様、モーミントゥンはMECとMEHL双方の取締役である

外国政府は、PTT、トタル、シェブロンが運営するもの含め、外国が出資する石油・天然ガス事業から軍政と国有企業へ資金が流れるのを阻止するべきである。そのような措置は、ガソリンや電気の生産は止めずに、軍政が国外に持つ口座へのアクセス制限を対象とすることが可能である。

タイの財政当局は制裁を科した諸国政府と協力し、外貨取引を処理するタイの銀行に対し、他国の経済的措置や制裁に従うよう指示するべきである。
MECとMEHLに制裁を科した各国政府は、ミャンマーに相当な額の投資をしているタイ、日本、シンガポールその他の国にも同様の措置を取るよう促すべきである。

「PTTのミャンマーへの投資は何億ドルもの資金を国軍に提供している」とボーシュナーは述べた。「関係各国政府はクーデター指導者のミンアウンフライン、SAC、その他の将軍たちが残虐行為から利益を得られないようするために、これらの資金源を制裁対象の最有力候補として検討するべきである。」

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