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日本とオーストラリアはミャンマー国軍を制裁すべき

ASEAN外交に賭けては成果なし 国際的な団結行動が損なわれる

掲載: The Diplomat
Demonstrators in Yangon protest the military coup in Myanmar, December 4, 2021. © 2021 Santosh Krl / SOPA Images/Sipa USA via AP Images

ミャンマー国軍が2021年2月1日に軍事クーデターを仕掛けた数日後、日本及びオーストラリア政府は「ミャンマー情勢について引き続き緊密に連携していく」と公に「確認」した。以来、両国はミャンマーの人権侵害について「重大な懸念」を繰り返し表明してきた。

3月3日、オーストラリア政府は、ミャンマー軍を含む人権侵害を行った組織や個人に対して経済制裁を課せる法律を採択した。ミャンマー国軍が過去1年間に1,700人を殺害し、数千人を恣意的に逮捕したことを考えれば、遅きに失したと言わざるを得ない。オーストラリアや日本は、ミャンマーで深刻化する人権危機については、今なお毅然とした態度を表明するだけに留まっている。残念ながら、今後も両国が具体的な行動をほぼ取らず、口だけ外交になる可能性は否めない。

なお、日本とオーストラリアは、ミャンマーに関していくつか小さな行動を取ったことは確かだ。日本は、軍事クーデターを非難したうえで、人道目的以外の新たなODA案件は凍結した。また、国会は民主主義体制の復活を求める決議を可決。一方、オーストラリアも支援プログラムの対象からミャンマーの「軍事政権」を除外し、ミャンマーとの防衛協力関係も一時停止した。オーストラリアの議会委員会は、クーデターに対する対応を検討した上、同国の外交政策目標として、文民統治復活の更なる追求をオーストラリア政府に促している。

しかし、日豪政府は、ミャンマー国軍に圧力をかけるために具体的な行動をとるにあたり、英国、米国、欧州連合(EU)、カナダなどの民主同盟国と歩調を合わせることに失敗している。これら同盟国のように、軍の指導者や軍系企業に対象を絞った制裁を科す代わりに、両国は東南アジア諸国連合(ASEAN)の(ミャンマー情勢に関する)5項目の合意と 「ASEAN中心性」の原則を踏まえ、それ以上の行動を取らなかった。その結果、実質的な進展は見られていない。

ASEANが「5項目の合意」を発表したのは昨年4月だが、それ以来、項目のいずれについても進展がみられない。ミャンマーの「軍事政権」は、ASEANが提示した国際的な基準より遥かに低い要求さえ満たす気がない。それどころか、ASEANに敬意を払う国際社会の姿勢を利用し、実効的な行動を遅らせてきた。その間、日本とオーストラリアは都合よくASEANの背後に隠れて、対象を絞った制裁の発動を避けてきた。結果として、ミャンマー国軍による残虐行為の責任追求を望む国際社会の取り組みを、実質的に妨げてきた。

2022年3月下旬、カンボジア外相とプラック・ソコンASEAN特使は、ミンアウンフライン国軍司令官と会談し、停戦を含む5項目の合意を提唱した。しかし、事後、ソコン特使はほとんど進展がなかったと主張。また、ミャンマー軍は、ソコン特使が、2020年11月の国政選挙で圧倒的勝利をおさめた国民民主連盟のアウンサンスーチー氏をはじめ、投獄された指導者らと会談を行うことを許さなかった。

1月、ミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官は、「国連安全保障理事会とASEANがとった措置は、ミャンマー国軍に対し暴力行為をやめるよう説得するには不十分だった」と述べた。日豪両政府は、バチェレ氏の呼びかけに耳を傾けるべきだ。

2021年初頭から、日本の与野党議員は、国外における国際人権違反者の制裁を可能にする米国マグニツキー法と類似する法案の提出を議論してきた。岸田文雄首相は昨年末、そのような法案を引き続き「検討」すると述べている。一部議員は、従来国連安保理の決議に従い発動されてきた「外国為替および外国貿易法」の適用も提唱してきた。

しかし、日本政府は経済制裁に消極的だ。昨年4月、茂木敏充外相(当時)は、他国と共にミャンマー国軍指導者らに制裁を科しても「生産的な結果」にはつながらないと発言。なお、茂木外相は主張を裏付ける根拠は示さなかった。

一方、オーストラリアは2021年後半に自主制裁改正法を可決して、対象を絞った資産凍結や入国禁止措置を課すことを可能にした。豪政府はこの新法により、国益上緊密な関係にある同盟国やパートナーと「国際的懸念のさまざまな事態に対し、協力を含むより柔軟かつ迅速な対応ができる」ようになるとしている。が、市民社会団体や野党政治家からの提言があるにもかかわらず、豪政府はミャンマーの軍事政権に対して同法を適用することに消極的だ。

豪政府は、ミャンマーの軍事政権が国際的な圧力に「鈍感」であり、制裁は「現地の市民にプラスの影響を与えるとしてもごくわずかだろう」としている。しかし、このような姿勢は、対象を絞った制裁を強く求めているミャンマーの人々に応えていない。また、過去10年間、経済制裁が国軍に対して改革の圧力をかけた事実も考慮していない。むしろ、ミャンマーの民主化がまだ不安定な状態であったにもかかわらず、各国政府が圧力をあまりにも早く弱めてしまったため、現在の状況になってしまった。

これまでの全面的な制裁措置は、ミャンマーの人々にとって壊滅的なものだった。だからこそ、今後カギとなるのは、各国政府が協力した対象限定型経済制裁の実施だ。国軍の経済的利益および経済関係は、以前より世界経済に深く組み込まれているからこそ、経済制裁は、より効果的になる可能性が高い。

必要な法律が整備されたことで、日本とオーストラリアがASEANを偏重しつつ行動を先延ばしするだけの時期は過ぎた。両国が具体的な行動を取れる環境はすでに整っている。日豪政府は速やかに、ミャンマー国軍指導者および軍系企業に対象を絞った経済制裁を科すべきだ。それに加え両国は、各国政府がミャンマーへの武器禁輸措置を要請した国連安保理決議を支持するよう、働きかけるべきだ。ミャンマー軍に対して、重大な人権侵害には、即時および長期的な結果がついて回るということを示さなければならない。

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