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日本:サウジアラビアに人権状況の改善を求めるべき

皇太子の来日は、深刻な人権侵害について公に指摘する機会だ

サウジアラビアのジッダで行われた岸田文雄首相の歓迎式典に出席する岸田首相とムハンマド・ビン・サルマン皇太子、2023年7月16日。

(東京)-日本の岸田文雄首相は、サウジアラビアの事実上の支配者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子に対して、公な形で人権を尊重するよう働きかけるべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。皇太子は5月20日から23日にかけて来日する予定であり、皇太子兼首相として初めての訪日だ。

日本政府は近年、エネルギー、貿易、投資、そして観光業などを通じてサウジアラビアと交流を増やす中、同国の人権状況の改善に向けて、働きかけを強めるべきだ。最近では、日本政府は今年1月に国連人権理事会で開催されたサウジアラビアの普遍的・定期的レビューで、同国に市民的、政治的権利に関する国際規約と経済的、社会的、文化的権利に関する国際規約の批准を求めた上、障がいのある女性を含めた女性らの社会参加と女性の権利の確立も提言した。

「サウジアラビアと健全かつ生産的な関係性を築くためには、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子に対して女性、人権擁護者や移住労働者の権利を尊重するよう公な形で働きかけるべきだ」とヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗は述べた。「両政府の強い関係性を構築するにあたり、人権の共通認識と尊重は重要だ」。

ムハンマド・ビン・サルマン皇太子が2017年に権力の座についてから、サウジアラビアでは近代で最悪の人権弾圧が起きている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。例えば、サウジアラビアは2022年3月8日に、「個人身分」法の制定を通じて、女性の男性後見人を正式に法制化した。ムハンマド・ビン・サルマン氏やサウジアラビア当局者は同法律を「包括的」かつ「先進的」とアピールしたが、女性の結婚、離婚、そして子どもに関する判断について差別的な規定が含まれている上、結婚におけるドメスティックバイオレンスや性暴力を促進する規定もある。

サウジアラビアの女性の権利の活動家たちは長い間、女性に対する差別を解消する個人身分法の制定を求めてきた。しかし、法案が制定前に公にされなかったため、当局は活動家たちに提言の機会を与えなかった。近年、女性の権利の活動家たちは恣意的な逮捕や拘束、拷問、そして渡航禁止などの被害にあっている。例えば、Loujain al-Hathloul氏、Nassimah al-Sadah氏、そしてSamar Badawi氏は渡航禁止措置を受けている上、刑の執行猶予中のため、犯罪的活動をしていると当局がみなしたら、刑務所に入れられてしまう。岸田首相はムハンマド・ビン・サルマン氏に対して、Loujain al-Hathloul氏を含む女性の権利の活動家たちに対する恣意的な渡航禁止措置の停止を求めるべきだ。

サウジアラビア当局は、平和的な政府批判者、公共知識人、そして活動家たちを恣意的に逮捕しており、市民的及び政治的権利に対する抑圧は悪化している。数十名のサウジアラビアの人権擁護者や活動家たちは、政府の政策を批判したり政治および人権に関する改革を求めたため、長期の刑に服している。

また、当局はソーシャルメディアで平和的な発信をしているサウジアラビア出身やそれ以外の利用者をより頻繁に標的にしており、数十年の実刑判決や死刑宣告で懲らしめている。2023年7月には、サウジアラビアのカウンター・テロリズム裁判所である特別刑事裁判所が、Muhammad al-Ghamdi氏(54歳、元教師)をオンラインでの平和的な発信が複数の刑事犯罪であるとして、有罪判決を下した。同裁判所は、同氏のツイート、リツイート、及びユーチューブでの活動を証拠として、死刑を言い渡した。

人権活動家のMohammed al-Rabea氏、支援従事者のAbdulrahman al-Sadhan氏、 そして人権弁護士のWaleed Abu al-Khair氏は現在も平和的な表現や活動を理由に服役中だ。岸田首相はムハンマド・ビン・サルマン氏に対して、三者を直ちに無条件で解放するよう要求すべきだ。

サウジアラビアの経済は、同国の人口の4割以上を占める移住労働者に大きく頼っている。しかし、移住労働者たちは政府の十分な保障がない中、賃金未払い、過度な募集手数料、そしてパスポートの没収など広範囲な人権侵害の被害に遭っている。2021年の改革後も、権利侵害的なカファラ・システム(スポンサーシップ)は雇用主に移住労働者の流動性や法的地位に関して過度な権力を与えている。移住労働者たちは転職やサウジアラビアからの出国に苦労している上、雇用主が居住許可証を発行及び更新しないことも多い。虐待から逃れようとしても、移住労働者が雇用主の同意を得ず離職した場合、「逃亡」という罪を被せられ、服役または国外追放の対象となる。移住労働者たちは、そうした措置に異議申立てする権利がない。また、こうした広範囲な人権侵害以外にも、強制収容、隔離や身体的及び性的虐待の被害にも遭っている。

岸田首相はムハンマド・ビン・サルマン氏に対して、こうしたカファラ・システムを完全に解体し、労働者の保証を改善するために労働改革を実施するよう働きかけるべきだ。

日本政府は、サウジアラビアと交流を深める中、人権に関する力強いメッセージを含めるべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。2017年に両政府は「日・サウジ・ビジョン2030」という「枠組み」を「官民が参画し、両国の成長戦略に貢献するプロジェクト」として発表した。

岸田首相は2023年7月にサウジアラビアでムハンマド・ビン・サルマン氏を訪問した際、「日本企業のサウジアラビアへの投資の関心は高く、今回も多数の企業が経済ミッションとして同行している」と述べた。また、「国際の平和と安全に関する諸課題への対応において、引き続きサウジアラビアと緊密に連携していきたい」とも発言した。

「岸田首相はこの貴重な機会を使い、サウジアラビア政府が引き続き深刻な人権侵害を犯すのであれば、ビジネスアズユージュアルではできないと、ムハンマド・ビン・サルマン氏に公な形で伝えるべきだ」と土井は述べた。「日本政府による沈黙はサウジアラビア当局を付け上がらせるだけでなく、自身の人権外交の理念を裏切ることになる」。

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